日本部素材メーカーの逆襲、名古屋大と8社が挑む「フェザーインバータ」
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- 更新日
- 公開日
- 2026.09.30
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わずか3%前後――。世界のEV(電気自動車)市場における日本メーカーのシェアだ 1)。非EVを含む全車両の世界販売では、2025年に日本メーカーが約24%を占めたことを考えれば、その落差は際立つ。EV市場では中国メーカーが55%と過半を握る 2)。2025年には中国BYD(比亜迪)がEVを約226万台販売し、米Tesla(テスラ)を抜いて初の世界首位に立った。
1)経済産業省
「自動車をとりまく国内外の情勢と自動車政策の方向性」(2025年3月12日)。
メーカー国籍別のEV販売シェアで、2023年実績。
2)経済産業省 資源エネルギー庁
「世界で見直しがはじまった自動車産業政策~日本の『マルチパスウェイ戦略』にも注目が」(2026年4月24日)。
2025年の世界販売約9500万台のうち日系メーカーは約2300万台。EV市場のメーカー別シェアは2024年実績。
苦戦しているのは完成車だけではない。販売を伸ばす中国メーカーのEVから、日本メーカー製の部品が次々と姿を消している。例えば、駆動モーター用インバータの平滑キャパシタ。かつては日本メーカー製が採用されることが多かったが、現在は中国メーカー製が台頭している。他の部品を見ても、筆者が知る限り、最近の中国車に日本メーカー製はほとんど見当たらない。素材や要素技術、加工技術では世界最高水準にありながら、最終製品の中で居場所を失っていく。それが、この10年の日本の電動化を巡る風景だった。
土俵際まで追い込まれたこの状況に、一石を投じる動きが現れた。名古屋大学の山本真義教授が主導し、8社が参加する産学連携プロジェクト「フェザーインバータ」である。参加するのはアオイ電子、北川工業、大豊工業、東レ、ニチコン、パナソニック インダストリー、三菱電機、ロームの8社。いずれも単独で世界と戦える技術を持ちながら、これまでは自動車メーカーやティア1(1次部品メーカー)の下で別々に戦ってきた企業である。各社が手札を1枚ずつ持ち寄って作り上げた試作品を、2026年9月9~11日に幕張メッセで開催された「第5回 ネプコン ジャパン[秋]-エレクトロニクス開発・実装展-」で披露した。
成果は目を引く。プロジェクトが本格的に始まったのは2026年4月。そこからわずか5カ月で、テスラの電動ピックアップトラック「Cybertruck(サイバートラック)」のインバータに使われているパワーモジュールと冷却器の一体部品と比べて、同出力で重量を約80%(1077gから200g)減らした試作品を完成させた。山本教授は「最初に目標値があったわけではない。各社が持つ技術を組み合わせていった結果、すごい成果が生まれた」と語る。
サイバートラックのものには、平滑コンデンサーが搭載されている(右上部の黒い部分)ので、その部分を割り引いて大きさを比べる必要がある。
フィンを高密度化し、ウォータージャケットを樹脂に
展示した試作品のブレークスルーは、大きく2つある。「冷却器」と「パワー半導体パッケージ」だ。冷却器は金属加工を得意とする大豊工業と樹脂材料に強い東レが、パワー半導体パッケージはアオイ電子とローム、三菱電機が手を組んで開発した。
インバータの冷却器は、パワー半導体を実装したモジュールの背面にフィンを設け、そこに冷却水を流す構造が主流である。フェザーインバータも同じ方式を採るが、2つの工夫で小型・軽量化した。
第1の工夫が、大豊工業が担当したフィンである。フィンの冷却性能は、おおむね表面積と冷却水の流量で決まる。同社はフィンを細くして単位面積当たりの本数を増やすことで、表面積を確保しながらフィンを短くし、冷却器を低背化した。併せて流路を最適化し、圧力損失も低く抑えた。ピッチの狭いフィンを成形する場合は量産設計に対して技術ハードルが上がるが、同社はこれを解決したという。
第2の工夫が、東レが担当したウォータージャケット(冷却水の流路を形成する筐体)である。中国メーカーやテスラがアルミニウム(Al)合金の鋳造品を使うのに対し、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂製とすることで大幅な軽量化と薄型化を実現した。Al合金製のフィン部と樹脂は異種材料の接合になるが、Al合金の表面を粗化し、そこに溶融した樹脂を入り込ませて接合する方法などを用いる。ウォータージャケットがAl合金製の場合、ゴム製のシール材を挟んでフィン側とボルトで締結する構造が多い。フェザーインバータはボルトを使わないため、この点でも軽量化できた。
パワー半導体パッケージにも、薄型・軽量化に向けた新しい技術を採用した。中心となったのはアオイ電子である。ロームのSiC MOSFETチップと三菱電機のSi IGBTチップを、厚さわずか0.4mmの基板実装パッケージに一緒に内蔵した。ガラスパネルの表面にチップを並べ、絶縁層や配線層を形成していくパネルレベルパッケージ(PLP)技術で実現したもので、パネルの寸法は300mm角である。SiCとSiではチップの厚さが異なるため、同じパッケージに収めるのは難しいとされるが、同社はこれを実現した。完成したパッケージは極めて薄く、冷却器の上に厚手のシールを貼ったように見える。薄さゆえに、(1)熱抵抗が小さく冷却性能に優れる、(2)パワー半導体チップをつなぐボンディングワイヤが不要になり、寄生インダクタンスを大幅に抑えられる、といった利点もある。
SiC MOSFETとSi IGBTチップを同時に封止した。
SiC MOSFETとSi IGBTという2種類のチップを1つのパッケージに封止したのは、インバータの効率を高めるためだ。SiC MOSFETは低電流域、Si IGBTは大電流域で高い効率が得られる。出力電流に応じてどちらか一方、あるいは両方を同時に駆動することで、幅広い動作領域で効率を向上させる狙いである。さらに今回は、定格電流が比較的小さいパワー半導体チップを使い、パッケージを並列接続して大電流に対応する。チップを小さくして、高い歩留まりを得るためだ。
冷却器とパワー半導体パッケージの接合にも新しい試みがある。東レの絶縁放熱シート「FALDA(ファルダ)」で接着するというものだ。FALDAは絶縁性を備える上、耐熱温度が200℃以上、熱伝導率が15W/m·Kと高く、パワー半導体パッケージの接合に使える。従来のパワーモジュールは、チップの下にはんだ、銅、セラミックスなど複数の層があり、さらに冷却面とは銅や銀の焼結材などで接合していた。各層の線膨張係数が異なるため、剥離や割れが生じやすかった。また、接合の際に高温にする必要があった。今回の方式ではパッケージの下はFALDAだけで、接着層に柔軟性もあるため、線膨張係数の差に起因する剥離や割れは起こりにくい。
EMIフィルタと平滑キャパシタにも新技術
今回の展示には間に合わなかったが、EMI(電磁妨害)フィルタと平滑キャパシタでも新たな開発が進んでいる。
中でも興味深いのが、北川工業がUBEマシナリーから特許ライセンスを受けて開発中の熱変換ノイズフィルタ(HRF)だ。フェライトコアを使う従来方式のフィルタと比べて、体積を60%、重量を80%削減できるという。現在、モーターの小型化や高効率化に向けてインバータのスイッチング周波数は高まる方向にあり、SiCパワー半導体による高速スイッチングも相まって、高周波ノイズが増大している。フェライトコアに頼る従来方式は、高周波ノイズが増えるほどフィルタが大型化するというジレンマを抱えていた。これに対し熱変換ノイズフィルタは、主回路の電流はそのまま通しつつ、高周波成分だけを磁気結合と電気結合で2次側に取り出し、抵抗で熱に変えて吸収する。この原理により、高周波帯でも小型のまま高い減衰性能を維持できるという。フェザーインバータのEMI対策部は、このフィルタと、パナソニック インダストリーの小型・軽量で安全性の高いフィルムキャパシタを組み合わせて構成する。
平滑キャパシタでは、ニチコンのフィルムキャパシタに名古屋大学の超低インダクタンス配線技術を組み合わせる。「パワー半導体パッケージの下に貼り合わせられるような構造を狙う」(山本教授)。寄生インダクタンスに起因するサージ電圧を抑えられれば、その分キャパシタの容量を減らせ、小型化につながる。
8社の技術が出そろった試作品を見られるのは、2027年2月に東京ビッグサイトで開催される「ネプコン ジャパン」になりそうだ。ゲートドライバや平滑キャパシタ、フィルタまでを一括実装したインバータシステムとして出展する計画である。
「ティアマイナス1」を狙う
フェザーインバータの参加企業には、ある特徴がある。自動車メーカーに部品を直接納めるティア1が1社も入っていないことだ。山本教授は「ティア1を入れると、特定の自動車メーカーの色が付いてしまう。テスラにも中国にも欧州にも日本にも展開できる『共通インバータ』を作るために、あえて入れなかった」と説明する。
同教授が手本とするのが、中国・華為技術(ファーウェイ)が主導する自動車アライアンス「HIMA(鴻蒙智行)」である。ファーウェイが自動運転システムなどをアライアンス傘下の複数の自動車メーカーに供給し、自動車メーカー側は開発リソースを抑えられる。SDV(ソフトウエア定義車両)やADAS(先進運転支援システム)、自動運転システムの共通化が進めば、次に来るのは車両そのもののコモディティー化だ。そうなれば、構成部品の共通化も当然のように進む――。山本教授はこう読む。
その兆しは日本にもある。ホンダが2026年内に連結子会社化を予定しているAstemo(アステモ)のインバータを、日産自動車が新型「リーフ」や「e-POWER」搭載車に採用した。かつてはドイツPorsche(ポルシェ)の「Taycan(タイカン)」のような上位クラスの車両に載っていた高性能インバータの技術を、リーフのクラスに搭載して数を出し、コストを下げるモデルに踏み出したと山本教授はみる。高性能な部品がコモディティー化し、系列を越えて共通化されていく過程では、自動車メーカー同士をつなぐ役割を部品メーカーが担うことになる。
フェザーインバータが目指すのも、この立ち位置だ。特定の自動車メーカーに縛られず、共通化した先進的な部品システムを世界の自動車メーカーに提案する。山本教授はこれを、ティア1のさらに先という意味を込めて「ティアマイナス1(Tier -1)」と呼ぶ。
実用化に向けて同教授が描く流れはこうだ。プロジェクトは電動システムの設計企業と組み、ティアマイナス1として各自動車メーカーにインバータのシステムそのものや設計技術、要素技術(IPを含む)、材料を提供し、量産工程の指導までを担う。実際の量産は、各自動車メーカーのティア1が引き受ける。現在のサプライチェーンではティア2に相当する材料・部品メーカー群が、共通品としての部品システムを自動車メーカーに直接提案する構図である。「もちろん各要素技術だけでも売れるので、“つまみ食い”してもらっても構わない」(山本教授)。
欠けているピースは「設計会社」
ただし、この構想には欠けているピースがある。要となる設計会社だ。現在は名古屋大学が各ワーキンググループ間の連携設計を担う「糊(のり)付け役」を務めており、同大学の特任教員が設計し、そこに半導体メーカーなどのノウハウを注入してシステムを構築している。山本教授は「一番重要な設計メーカーがいない。設計会社をスピンアウトさせる、社内ベンチャーを立ち上げる、名古屋大学に研究員として出向してもらうなど、何らかの形で一緒に設計できるメンバーや設計会社を立ち上げられないか考えている」と話し、参画する企業や技術者を募っている。このほか、電流センサーやアナログ制御、GaN(窒化ガリウム)パワー半導体を搭載した際の計測技術、浸漬冷却用の冷媒などを手掛ける企業の参加も求めているという。
狙う市場は、まずC~Dセグメントの電動車である。さらに、薄くて軽いという特徴を生かし、搭載スペースの制約が厳しいインホイールモーターや、AI(人工知能)データセンターのラック内電源、航空宇宙、ロボットなどへの展開も視野に入れる。
もっとも、今回披露したのはパワー半導体パッケージと冷却器の部分であり、電気的な評価結果の公開はこれからだ。プロジェクトの計画では、2026年11月にドイツ・ミュンヘンで開かれる世界最大級の電子部品・エレクトロニクス総合見本市「electronica」でSiCのモデルを使ったシミュレーション結果を提示し、2027年2月のインバータシステムの出展につなげる。要素技術で勝ちながら最終製品の中で居場所を失ってきた日本の部品・素材メーカーが、この枠組みで再び存在感を示せるか。設計会社の確保と、自動車メーカーによる採用実績づくりが試金石になる。
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今後のフェザーインバータPJについて未来を語る山本教授と、
NATAE中道氏、リョーサン菱洋信田 -
苦節ありながら、立ち上げたフェザーインバータPJ。
取材中、一部には談笑する場面も。
名古屋大学 山本教授(左)と取材者(NATAE 中道氏)
取材協力 名古屋大学 山本真義教授(左)
取材・執筆 合同会社NATAE 中道 理(右)
執筆者経歴:1997年日経BP社に入社、日経バイト記者、日経コミュニケーション記者、日経エレクトロニクス記者/副編集長、リアル開発会議編集長を経て2020年から日経エレクトロニクス編集長。2026年に日経BPを退社し、合同会社NATAEを設立。現在、ライター/編集者/メディアコーディネーター/寿司職人として活動中。

