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生成AIの次に来る「フィジカルAI」。製造業が今取り組むべき課題とは

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  • 更新日
  • 公開日
  • 2026.09.25

 2026年7月30日、ステーションコンファレンス東京にて、「HPE×リョーサン菱洋 オフラインイベント -生成AI・フィジカルAI Networking-(NVIDIA協賛)」が開催された。 当日は、大手企業11社から20名が参加。企業内でAI推進を担う部長・課長クラスを中心に集まり、生成AI活用の現在地と、その先にあるフィジカルAIの可能性について議論が交わされた。 セミナーとネットワーキングを通じて浮かび上がったのは、「AI導入」そのものが競争力になる時代は終わりつつあるという現実だ。企業固有の知識や現場データをどのように活かすかが、次の勝負どころになり始めている。

1. HPEが描くAIインフラの全体像

 イベント冒頭では、日本ヒューレット・パッカード合同会社(HPE)の北本 貴宏氏が登壇した。
HPEはAI、Cloud、Networkingの3つの要素を完備し、モダンITを構築するプラットフォームベンダーとして、NVIDIAとの協業を含むAI戦略を紹介。特に、オンプレミスでありながらクラウドの利便性を実現する「HPE GreenLake」を中心に、企業のAI活用基盤整備、つまりPoCから全社展開への移行をいかに支援できるのかを重要なテーマとして語られた。

 また、リョーサン菱洋「AI Techmate Program for Digital Twin」との連携にも触れられ、「HPE Green Lake」と共に展開される長期的なプロジェクトでも無駄のないコンピューティングリソースを得られるハイブリッドクラウドサービスの有用性が示された。

  • ​AI TechmateProgram for Digital Twin:デジタルツイン導入支援サービス

引用:HPE北本氏投影資料より

2. 日本製造業に求められるのは「暗黙知の資産化」

 早稲田大学 知覚情報システム研究所 招聘研究員 速水 悟氏の講演では、日本の製造業におけるAI活用の課題と今後の方向性が語られた。

ChatGPTなどの生成AI活用は広がった一方で、多くの企業がエージェントやRAGへの期待先行に陥り、社内情報の整備が追いついていないと指摘した。

成果を上げている企業は、AIそのものではなく、「AIが活用できる知識」を整備している企業であるという。

特に重要なのが、現場に蓄積された暗黙知だ。

設計レビュー、トラブル報告、安全管理ノウハウなどの知見をデータとして整理し、組織全体で活用可能な形に変えていくことが競争力につながると強調した。

 また、海外の展示会や学会で急速に注目を集める「フィジカルAI」にも言及。生成AIの次の潮流として、認識・判断・行動を統合し、現実世界へ作用するAIへの関心が急速に高まっている現状が紹介された。

印象的だったのはROIに対する考え方だ。AI活用は短期的な費用対効果だけで評価するのではなく、人材育成や組織変革への投資として捉える必要がある。ROIは短期収益ではなく人材育成・外部との継続的パートナーシップへの投資と捉えるべきと結論づけた。

3. フィジカルAIは製造現場をどう変えるのか

 続いて登壇したMakinaRocks 永井氏。製造業特化型AIの最前線を紹介した。

同社は韓国発の産業用AI企業で、最適化AI、図面解析AI、予知保全化AIなどを展開している。

講演では「フィジカルAIとは、認知・判断・実行を統合し、AI Agentを通じた自律制御の実現」と定義。生成AIが情報処理を担う存在だとすれば、フィジカルAIは実際の設備やロボットを動かす存在だという。

紹介された事例は多岐にわたる。

発電プラントの自律制御、SMT実装ラインの最適化、溶接ロボットの自動ティーチング、自動車組立ラインの補正制御など、すでに現場で実証が進んでいる。

共通していたのは「完全自動化」ではない点だ。AIが判断案を提示し、人が最終判断を行う。現場での安全性や信頼性を担保しながら段階的にAI活用を進めるアプローチが実践されていた。

また、製造業の完全自律型製造に向けた数多くのプロジェクト経験から導き出された結論として、「ドメイン知識※こそ最大の壁であり最大の資産である」と語られたことも印象的だった。

  • ​ドメイン知識=対象となる特定の業務領域や事業分野に関する専門的な知識

引用:MakinaRocks 永井氏投影資料より

4. AI成功の鍵は技術ではなく現場理解にある

 インダストリエイトの板野氏は、フィジカルAI導入を成功させるための実践論を紹介した。

同氏が繰り返し強調したのは、「ロボット選定やモデル選定から入ってはいけない」という点である。まず取り組むべきは、
  • 入力
  • 判断
  • 現場で使う
  • 記録

という業務サイクルの可視化だ。「データがある」だけでは導入には進めない。AIが何を見て、何を正解とし、その結果をどこまで使うかまでを1つの流れにする。つまり“入力・判断・使う先をそろえる”ことが必要不可欠。

現場にある画像、音声、PLCデータ、作業記録を整理し、ベテランがどのような根拠で判断しているかを明らかにすることがAI活用の出発点になるという。

講演では、図面チェックを担当する熟練者の知見を学習データ化する事例や外観検査AI、監視カメラ型AIなどの事例が紹介された。

どの事例にも共通していたのは、「暗黙知を形式知へ変換する」という考え方である。AI時代において価値を生み出すのはモデルではなく、企業固有の知識資産であることを改めて示す内容となった。

5. ネットワーキングで見えた企業の共通課題

 講演後には参加企業同士によるネットワーキングが実施された。

「AIを現場業務へどう適用するか」 「AI導入のROIをどう説明するか」
というテーマを中心に議論が行われた。

業種や企業規模は異なるものの、多くの企業が共通して抱えていたのは、

  • データはあるが使い道が定まらない
  • OT/IT間の連携不足が横展開の壁
  • ROIは労務費削減だけでは決裁に至らない

という課題である。

一方で、他社の取り組みや失敗談を共有することで新たな気付きも生まれており、参加者同士の交流自体が大きな価値になっていた。

6. おわりに AI導入競争から「知識活用競争」の時代へ

 今回のイベントを通じて見えてきたのは、生成AIブームの次のフェーズである。もはやAIモデルそのものの性能差は急速に縮小しつつある。

これから企業の差別化要因となるのは、「自社の現場に眠る知識や経験、暗黙知をどれだけAIが活用できる資産へ変換できるか?」だ。

 また、講演者全員が共通して語っていたのは、AI時代において単独で走り続けることの難しさである。技術進化のスピードが加速する中、ユーザー企業、大学、スタートアップ、SIer、プラットフォームベンダーが継続的に知見を持ち寄る場の重要性は今後さらに高まっていくだろう。今回のイベントはその第一歩となる場だったと言える。

AIの次の一手を模索している製造業関係者にとって、次回開催も注目すべき機会になりそうだ。

                                           (編集者:山口 功一郎)

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